七瀬さん、あれから――(前編)


 

七瀬さん、あれから・・・(前編)

季節は、ほんの少しだけ進んでいた。
春の風が強くて、スカートの裾がめくれそうになるたび、
七瀬はふと足元を見下ろして、小さくため息をつく。

今日も――リブ織りの白ソックス。

「……また、これ選んじゃった」

洗濯籠の奥から自然に手が伸びてしまう。
新品でもない、くたっとしたお気に入り。
履くたびに、あの時のことが蘇る。

あの夜。
理性も羞恥心もすべて脱ぎ捨てて、
でも、ソックスだけは脱がなかった夜。

 


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