生活の匂いと、白い足元
「ほんとに来てくれたんですね。……ちょっと、うれしいかも」
通された部屋は、落ち着いた間取りのリビング。
ソファに座ると、ほのかに洗剤と柔軟剤が混じった香りが漂う。
奥さんはキッチンで湯を沸かしながら、ちらちらとこちらの様子を伺ってくる。
制服は脱いで、ゆったりしたニットに短めのスカート。
でも足元は――やっぱり、あの白いリブソックスのままだった。
(……わざと、履き替えてない?)
視線が自然と吸い寄せられる。
薄汚れたつま先、くたっとした履き口。
さっきまで仕事していたそのままの足――
それが、目の前で動いている。
「暑いですね、今日。
なんか、靴の中ずっとムレムレで……帰ってすぐ脱ごうかと思ったけど、間に合わなくて」
そう言いながら、彼女は片足を反対の膝に乗せて、
つま先をくるくると回してみせる。
「……そんなに、見てます?」
「え……い、いや……」
「ふふ。じゃあ、ちょっと意地悪しようかな」
そのまま彼女は、ソファに腰掛けたぼくとの距離を少し詰めて、
つま先で、ぼくのすねをこつん、と小突いてきた。
「匂い、嗅いでみる?」
冗談めかしてそう言ったのに、
ぼくの表情が一瞬で変わったのが分かったのか、
奥さんは目を細めて、にやりと笑った。
「……ほんとに? 嗅いじゃう?」
次回につづく・・・
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